光臨はさっと葵の肩から離れて一陣の風に巻かれるやいなや、
葵の目の前に白一色の巫女装束をした美しい少女となって現れた。
「ふう。久々にこの姿になったわ。さあて、うまく言霊が使えるかしら」
光臨はゆっくりと深呼吸をして、白く美しい両手を胸のあたりで複雑にくんで言葉を紡ぎだした。
久遠の時 血の如く万物に流れし言葉の霊よ
始まりを知る 鼓の音とともに
鎖解き放ち 今我らの国において望む者を表わし その道標を示したまえ
そう言い終わるか早いか、風の向きが急に変って光臨に吹きつけたかと思うと
彼女の体がグタリとその場で倒れて動かなくなった。
ドクン…
光臨の体から、葵にまで聞こえそうなほど大きな心臓の鼓動音のようなものが、
周囲の空気を振動させながらあたりに広がった。
そしてその振動に触れたあたりの木々や空気が今まで保っていた型から解放されるように、
グニャリと崩れ、一つの大きな塊となって光臨の体の上に集まった。
グルグルと渦巻くそれは「魂」だった。
「言霊」という「鎖」から解放された、万物の本質ともいうべきもの。初めて見た。