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工場長

時空を駆け巡るマシンはでてこない(。-`ω-)

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無題

葵はその場で考えこんだ。
おかしい。『剣』が移動していることは、その所有者が白金家のように自覚している者でないならば当然のことだから理解できる。しかし、『勾玉』はそうではない。移動していないのだ。考えられることは三つ。
 一つは自覚している者であるということだが、それならばとっくに発見できたはずなのにできなかったということはそうではないということ。二つ目はその所有者が病などで移動できないということ。だが、そうであるなら『勾玉』の力で治癒されるか何かあるはずだから光臨がそれを察知できないはずがない。
 最後は考えたくないが、神霊が所有しているということ。それはこれまでにないことだし、第一に神霊が番人になれるはずがない。でも、もしそうだとしたら、一体どうなってしまうのか? 『勾玉』はなぜ人を選ばなかったのか?
そんなことを考えているうちに光臨がぴくっと動いて羽を広げて葵の肩に舞い降りた。
「なにか収穫はあった?」
「まあね。『剣』のありかはまだ分からないけど、確証は持てたと思うわ。ねえ、光臨。もし、神器が人のもとではなく神霊のもとにあるとしたらどうなるのかしら?」
「それは原始以来起こり得ないはずよ。だって神器はもともと神々が人間に贈ったものだから。それが再び神々のもとにあるのだとすれば、それはその神器にただならぬ危機が迫っているということになるわ」
 ただならぬ危機か。どうか、私の思い違いであって。
 葵はそう念じながら、西に沈みゆく太陽を眺めた。全てを茜色に染め上げながら、天上には星が瞬き始めていた。
「ねえ、光臨」
 光臨は首を曲げた。
「今から行けるかしら? 『勾玉』を探しに」
光臨はパサリ、とはばたいて葵の目の前で飛んだ。
「いいわ。早ければ早いほど、問題の収束は速くなる」
「ありがとう」
 葵は微笑んで、光臨に唱えた。
 ――久遠の時 血の如く万物に流れし言葉の霊よ
 我が友の翼を広げよ この大空を天翔ける大きな翼を与えよ――
 光臨の体はみるみるうちに大きくなって、二階建ての家と同じくらいの高さになった。優雅な尾羽はさらに大きく豊かになって、真っ白な柔らかい帯のように地面を覆っていた。
「さあ、早く背中に乗って。日が暮れると私の目が見えなくなっちゃうわ」
光臨が後ろを向いた。葵はよじ登るような格好で、その豊かな尾羽から背中に乗った。
「行くわよ。振り落とされないようにね!」
光臨はバサリ、と大きな翼をはばたかせた。土埃が大量に舞い、一瞬のうちに葵と光臨は地上からかけ離れて大空を翔けていた。

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無題

 ドサリ
 光臨の体が再び倒れ、もとの美しい尾羽をもった鳥になった。
  
 
 
 
 
 
 
 
 咲哉(さくや)
 夕暮れが次第に西の果てに沈もうとしている頃、一人の女子高生が愛用のアルミ製自転車を川原沿いに猛スピードで走らせていると、後ろのほうから名前を呼ばれたような気がした。キキーっと両手でブレーキを思い切り握り、体重を偏らせて自転車を遠心力によって華麗に回転させて後ろを向いた、が、だれもいなかった。
「なあんだ。空耳か」
 よっこらせ、とハンドルを進行方向に再び向かせて今度はゆるゆると走らせて行った。そよ風が川の流れとは反対に吹きつけて彼女の前髪を逆立てた。

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無題

 その話は前に聞いたことがある。祖父だったろうか。この地は現世とは「違う」のだと。この地のものは人以外、全て原始のままなのだ。つまり、久遠の時を経て周囲の環境や動植物たちが進化していく中で、この白金家の巨大な森のような領域だけは時間が止まったかのようになって、当初の一定の霊力と言霊の力を保っているのだと。
「そうでしたか。再び同じことをお聞かせして申し訳ございませんでした。しかし、『剣』と『勾玉』は原始のものです。原始の強い力とその気配を感じることができますでしょうか」
 光臨の上に漂っている「魂」の塊が一瞬ソワッと震えた。
 おお。それなら感じる。未だなおあの尊い気配を感じることができる。
「それは、どこの方角からですか」
 『勾玉』は南の道祖神の果てあたり。『剣』は、難しい。ううん。難しい。移動していらっしゃる。ああ、分かった。おそらく西の、今は果ててしまった(なら)川の近くにいらっしゃる。今なら止まっていらっしゃるから間に合うぞ。
『勾玉』はともかく『剣』が移動しているのか。少し厄介だな。
「わかりました。しかし、なぜ『勾玉』は移動していらっしゃらないのでしょう」
 我等もよくわからん。だが、これで我等の使命は果たせたも同じ。これで充分であろう、白金の末裔よ。
「はい。本当にありがとうございました。これからも私たち白金家をお守りください」
光臨の顔が少し穏やかになってうなずくと、一陣の風に乗って光臨の声があたりに響いた。
 久遠の時 血の如く万物に流れし言葉の霊よ
 終わりを告げる 鐘の音とともに
 鎖で繋ぎ あるべき定めに戻りたまえ
カアアン…
今までに聞いたことのない澄んだ鐘の音があたり一面を包みこんで、「魂」の塊とともに
霧のように消えていった。

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無題

 「魂」の塊の一部が光臨の体の中に入り込んだ。ぱっと、人形のように、光臨の目を大きく開けて光臨の体を操って起き上がらせた。光臨の神がかった目が葵に向けられた。
 お前が我等を呼んだのか?
 葵は金縛りにあったようになり、その場に凍りついてしまって声が喉に張り付いて出ない。しかし、うん、のつもりで目でそのそぶりを見せた。光臨の顔は無表情のまま口だけが動いた。
 お前は、なぜ我等を呼んだのだ?話せ、白金の血をひくものよ。
 すると、葵の金縛りが少し解けたのか、ふっと体が解放されたように感じて、なんとか声が出せた。
 「私は今、重大な使命を負っています。それは私たち一族の力では到底果たせぬものです。また早急に果たさねばならないため、あなた方のお力でいち早く使命を果たそうと思ったのです」
 しばらくの沈黙の後、光臨の眼が葵の心の中をじっと見ているかのように動かなくなり、そして「魂」たちは悲しげに語り始めた。
 ああ、白金の末裔よ。お前の祖先の一人で、お前と同じ『臨ノ国』の番人であった者を覚えておる。
 おお、あさましや。あやつも我等の力を使おうと願っていたが、我等はその願いを叶えることはできぬ。なぜなら我等は原始のころよりこの地に縛られているから、外のことはわからぬのだ。
 ああ、何ということ。この地の者を守っていくことが役目であるのに、この地の者の願いを叶えてやれぬとは。ああ、恥ずべきことかな、恥ずべきことかな。

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無題

 光臨はさっと葵の肩から離れて一陣の風に巻かれるやいなや、
葵の目の前に白一色の巫女装束をした美しい少女となって現れた。
 「ふう。久々にこの姿になったわ。さあて、うまく言霊が使えるかしら」
 光臨はゆっくりと深呼吸をして、白く美しい両手を胸のあたりで複雑にくんで言葉を紡ぎだした。
  久遠の時 血の如く万物に流れし言葉の霊よ
  始まりを知る 鼓の音とともに 
  鎖解き放ち 今我らの国において望む者を表わし その道標を示したまえ
 そう言い終わるか早いか、風の向きが急に変って光臨に吹きつけたかと思うと
彼女の体がグタリとその場で倒れて動かなくなった。
 ドクン…
 光臨の体から、葵にまで聞こえそうなほど大きな心臓の鼓動音のようなものが、
周囲の空気を振動させながらあたりに広がった。
 そしてその振動に触れたあたりの木々や空気が今まで保っていた型から解放されるように、
グニャリと崩れ、一つの大きな塊となって光臨の体の上に集まった。
 グルグルと渦巻くそれは「魂」だった。
 「言霊」という「鎖」から解放された、万物の本質ともいうべきもの。初めて見た。

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