その話は前に聞いたことがある。祖父だったろうか。この地は現世とは「違う」のだと。この地のものは人以外、全て原始のままなのだ。つまり、久遠の時を経て周囲の環境や動植物たちが進化していく中で、この白金家の巨大な森のような領域だけは時間が止まったかのようになって、当初の一定の霊力と言霊の力を保っているのだと。
「そうでしたか。再び同じことをお聞かせして申し訳ございませんでした。しかし、『剣』と『勾玉』は原始のものです。原始の強い力とその気配を感じることができますでしょうか」
光臨の上に漂っている「魂」の塊が一瞬ソワッと震えた。
おお。それなら感じる。未だなおあの尊い気配を感じることができる。
「それは、どこの方角からですか」
『勾玉』は南の道祖神の果てあたり。『剣』は、難しい。ううん。難しい。移動していらっしゃる。ああ、分かった。おそらく西の、今は果ててしまった楢川の近くにいらっしゃる。今なら止まっていらっしゃるから間に合うぞ。
『勾玉』はともかく『剣』が移動しているのか。少し厄介だな。
「わかりました。しかし、なぜ『勾玉』は移動していらっしゃらないのでしょう」
我等もよくわからん。だが、これで我等の使命は果たせたも同じ。これで充分であろう、白金の末裔よ。
「はい。本当にありがとうございました。これからも私たち白金家をお守りください」
光臨の顔が少し穏やかになってうなずくと、一陣の風に乗って光臨の声があたりに響いた。
久遠の時 血の如く万物に流れし言葉の霊よ
終わりを告げる 鐘の音とともに
鎖で繋ぎ あるべき定めに戻りたまえ
カアアン…
今までに聞いたことのない澄んだ鐘の音があたり一面を包みこんで、「魂」の塊とともに
霧のように消えていった。